医療機関への営業が進まないとき、受付での話し方だけを直しても解決しないことがあります。商材と合わない施設へ連絡している、なぜ今その施設へ提案するのか説明できない、商談後に誰が何を判断するのか分からない。こうした状態では、活動量を増やしても案件の次の一手は曖昧なままです。
医療機器、電子カルテ、予約システム、SaaSなどを病院・クリニックへ新規開拓するなら、ターゲット選定から初回接触、商談、継続フォローまでを一つの営業プロセスとして設計することが出発点です。この記事では、各段階で何を決め、何を確認し、営業リストへ何を残せば次の行動につながるのかを整理します。
医療機関営業のコツは「5つの項目」を案件ごとに決める
医療機関営業では、最初から相手の内部事情をすべて把握する必要はありません。営業前に仮説を置き、受付や担当者との接点で確認しながら更新していきます。
案件ごとに最低限そろえたいのは、次の5項目です。
| 項目 | 営業前に決めること | 接点で更新すること |
|---|---|---|
| 対象条件 | 地域、施設種別、診療科など、なぜ営業対象にするか | 実際に商材と合う施設か |
| 連絡理由 | なぜこの医療機関へ今連絡するのか | 課題や検討予定と一致しているか |
| 最初の相談先 | 商材を使う部門や担当部署の仮説 | 実際の担当者・所管部署 |
| 判断条件 | 何を比較して導入を判断しそうか | 機能、運用、費用、連携など実際の比較条件 |
| 次回アクション | 初回接触後に何を得たいか | 資料送付、アポイント、見積もり、再連絡日など |
病院とクリニックを分けて考えることも必要ですが、それだけで営業方法は決まりません。医療法では、病院は20人以上の入院施設を有するもの、診療所は入院施設を持たないか19人以下の入院施設を有するものと定義されています。この区分自体は、院内で誰が商品を評価し、誰が契約や導入を判断するかを示すものではありません。
施設の呼び方より、商材を誰が使い、どの業務と組織範囲へ影響するかを見ると、最初に確認すべき相手を考えやすくなります。
医療機関営業では、活動量を増やす前に「なぜこの施設か」「誰が何を判断するか」「次に何が起きれば前進か」を案件ごとに決めておくことが重要です。
1. 商材の利用場面からターゲットを絞る
「医療機関ならすべて営業対象」とすると、営業リストの件数は増えても連絡理由は弱くなります。自社商材がどの業務で、誰に、どのように使われるかから対象条件を逆算するのがターゲット選定の基本です。
| 商材 | 営業前に見る条件の例 | 最初に確認したいこと |
|---|---|---|
| 医療機器 | 施設種別、診療科、設備・診療機能 | 現在の機器、利用部門、更新・追加導入の予定 |
| 電子カルテ | 施設種別、開設年月日、開設者・運営者 | 現行環境、更新時期、必要な連携 |
| 予約システム | 診療科、診療時間、公式サイト上の予約方法 | 現在の予約受付方法、利用者、見直し意向 |
| SaaS | 利用部門、施設規模、医療法人・運営者 | 誰が利用するか、現在の業務、導入条件 |
ここで使う施設情報は、購入意向を当てるためのものではありません。たとえば新規開業のクリニックでも、主要なシステムや医療機器が開業前に決まっていることは考えられます。開設年月日は「未導入」の証拠ではなく、何を確認するかを決める材料として扱います。
2026年7月1日時点のGasoLead全国医科ページには、全国の病院・クリニック96,751件、直近12か月の新規開業3,993件が掲載されています。母集団をそのまま上から営業するのではなく、地域、診療科、施設種別、商材との関係を重ねて候補を絞る必要があります。
最初から精密なスコアを作る必要はありません。「この条件なら自社商材について確認する理由がある」と説明できる線を引き、実際のアポイントや商談結果を見ながら条件を修正します。
2. 営業リストに「連絡理由」と「次の行動」を持たせる
営業リストを施設名と電話番号だけで終わらせると、担当者は連絡するたびに相手を調べ直すことになります。施設そのものの情報と、自社の営業活動で判明した情報を分けて管理すると、一覧が案件管理の入口になります。
| 施設について持つ情報 | 自社で追加する営業情報 |
|---|---|
| 医療機関名、地域・住所 | 優先順位、連絡理由 |
| 施設種別、診療科 | 最初に確認したい担当部署 |
| 電話番号 | 使用する連絡方法 |
| 管理者、開設者・運営者 | 判明した担当者・決裁者 |
| 開設年月日 | 比較条件、検討時期 |
| 診療時間、休診日 | 最終接触日、結果、次回連絡日 |
GasoLeadの現行医科ページでは、施設名、住所、電話番号、施設種別、診療科、管理者、開設者・運営者、開設年月日、診療時間、休診日などを確認できます。取得したCSVへ、自社側で「なぜ連絡するか」「何が判明したか」「次に何をするか」を足すと、収集用の一覧から営業用のリストへ変わります。
3. 初回接触では「売る」より担当部署と次の接点を確認する
電話での初回接触は、受付で商品の説明を完結させる場ではありません。最初の目的は、誰がこの相談を確認するのかを特定し、次の接点を作ることです。
お忙しいところ恐れ入ります。電子カルテの比較や更新についてご相談したく、院内で最初に確認される部署を伺いたいのですが、どちらへご相談するのがよいでしょうか。
担当者が分かったら、商品説明へ急ぐ前に、資料を送る相手、現在の運用、比較や見直しの時期、次に連絡する方法を確認します。アポイントを取れなかった電話でも、担当部署や再連絡条件が一つ判明すれば、その情報を次の営業判断へ使えます。
電話する時間も一律に決めつけません。公式サイトで診療時間や休診日を確認し、実際に受付から案内された連絡方法や時間帯を営業リストへ残します。
4. 商談では「現状→比較条件→院内手続き→次の一手」を確認する
商談で避けたいのは、相手の現在地が分からないまま資料を最初から最後まで説明することです。ヒアリングで現在の運用を確認し、比較条件と意思決定の流れを埋めてから提案を絞ります。
現在の運用を確認する
見直したい場面を確認する
比較条件を確認する
意思決定に関わる相手を確認する
検討時期と次の行動を決める
実在する病院でも、役割が分かれている例があります。東京大学医学部附属病院の企画情報運営部は医療情報システム全体の管理・運営を担っています。一方、大阪市立総合医療センターの2026年の病院情報システム調達では、契約担当として総務部財務課(契約管財)が示されています。
これはすべての病院が同じ組織構造を持つという意味ではありません。同じ案件でも、利用・専門評価・契約の担当が分かれる可能性を置き、実際の施設で確認するための実例です。個別の医療法人やクリニックでは、複数の役割を一人が兼ねることもあるため、肩書きだけで意思決定ルートを決めません。
5. 継続フォローは案件状態で分ける
初回接触や商談のあとに「その後いかがでしょうか」と同じ連絡を繰り返すと、何を確認するためのフォローなのか分からなくなります。「断られたか」ではなく、案件が今どの状態にあるかで継続フォローを分けます。
| 案件状態 | 現在分かっていること | 次の行動 |
|---|---|---|
| 担当未特定 | 相談すべき部署がまだ分からない | 担当部署・連絡方法を確認する |
| 担当判明・課題未確認 | 担当者には到達した | 現在の運用と見直し意向を聞く |
| 比較・検討中 | 課題と比較条件が分かっている | 必要な資料・見積もり・デモを用意する |
| 今ではない | 対象には合うが検討時期が先 | 検討理由と再連絡時期を記録する |
| 対象外 | 商材との適合が確認できない | 営業対象から外し、理由を残す |
「今は不要」と「今後も対象外」は同じではありません。検討時期が分かれば次回連絡日には根拠があります。逆に、再連絡する理由が何もない案件は無理に追い続けず、対象外の理由を残して営業対象から外します。
継続フォローでは、すべての案件を追うのではなく「次に連絡する理由がある案件」を残すことが、営業リストを使い続ける基準になります。
営業がうまくいかないときは「どこで止まったか」を見る
医療機関営業の改善で、架電数や商談数だけを見ると原因を特定しにくくなります。営業プロセスを段階に分け、そのどこで案件が止まっているかを見ると、直す場所を絞れます。
| 起きていること | 見直す場所 |
|---|---|
| リストは多いが連絡理由を作れない | ターゲット条件 |
| 電話しても担当部署が分からない | 初回の用件・尋ね方 |
| 担当者には届くがアポイントにつながらない | 提案テーマと対象条件 |
| 商談はできるが次回アクションが決まらない | ヒアリングと院内手続きの確認 |
| 「検討します」のまま止まる | 比較条件と検討時期 |
| 過去案件への連絡理由がない | 継続フォローの記録 |
KPIを置く場合も、業界共通の「正解のアポイント率」を仮定する必要はありません。対象件数、担当部署を特定できた件数、アポイント数、商談数、次回アクションを設定できた件数などを自社内で追えば、前工程と後工程のどちらを直すべきか判断できます。
たとえば担当部署への到達が増えているのに商談化しないなら、ターゲットの件数を増やすより提案テーマを見直す余地があります。商談数は十分なのに次の予定が決まらないなら、商品説明よりヒアリングや院内手続きの確認を見直します。
医療機関営業で避けたい3つの思い込み
「新規開業なら未導入」と考える
新規開業は連絡理由の一つになりますが、開業前に主要なシステムや医療機器が決まっていることも考えられます。開設年月日を見つけたら、「未導入」と判断するのではなく、現在の運用を確認する入口にします。
「院長が決裁者なら最初から院長へ行けばよい」と考える
最終判断に院長が関わる案件でも、実際に使う部門や技術条件、契約条件の確認が先に必要な場合があります。最初の相談先は肩書きではなく、商材について最初に判断できる業務から考えます。
「成果が出なければ活動量を増やす」と考える
対象条件がずれている状態で件数を増やしても、同じ場所で案件が止まります。ターゲット選定、初回接触、商談、継続フォローのどこに問題があるかを分け、必要な工程だけを修正します。
よくある質問
病院とクリニックでは営業方法を変えるべきですか
施設種別だけで一律に分けるより、商材の利用範囲、施設規模、運営主体、関係部署を確認して営業設計を変えます。小規模なクリニックで役割を一人が兼ねる場合もあれば、医療法人の本部確認が必要な場合もあります。病院でも、商材によって利用部門や契約担当は変わります。
院長へ直接アポイントを取るのが一番早いですか
必ずしもそうとは限りません。院長が最終判断に関わる場合でも、現場での利用条件やシステム連携、契約条件などを別の担当部署が確認する案件があります。最初に「この内容を確認される部署」を尋ね、その後に決裁者までの流れを確認します。
何回断られたら営業対象から外すべきですか
一律の回数ではなく、断られた理由で判断します。商材と合わないなら対象外、時期が合わないなら検討時期を記録、担当者が違うなら相談先を修正します。次に連絡する理由があるかどうかを基準にします。
まとめ
医療機関への営業のコツは、受付を突破する話法を一つ覚えることではありません。商材からターゲットを選び、営業リストへ連絡理由を持たせ、初回接触で担当部署を確認し、商談では現状・比較条件・院内手続き・検討時期を順に埋めていきます。
最初の一手は、自社商材に合う対象条件を決め、「なぜこの施設へ連絡するか」と「次に何を確認するか」が分かる営業リストを作ることです。